猫の医療は江戸時代~明治、大正、昭和、平成、令和と時代が経過してくるなかで、大きく変化してきました。
今回は猫に限らず総論的な話について述べます。
獣医学教育は馬医学(馬の教育)が中心でスタートしました。私が卒業した麻布獣医科大学(現在の麻布大学)を例にとると、今年創立135年(現在の東京都港区に創立)になりますが、1980年に612頁にまとめ発刊された90周年記念誌などの歴史に関連した書物などをみると馬についての記載が多く、これは1945年の第2次世界大戦の終了ころまで続きます。 創立当時、入学者は全国から募集したところ男子学生のみで25名くらい、ある意味、精鋭部隊的な感じだったそうだ(長老からお聞きした)。現在は1学年120名(6学年で720名)の定員で男女比は約半々ずつで女子が多い年もあります。創立当時は猫の医学は講義内容としてはなかったそうだが、猫が好きな人は話の話題としてはあったそうだ。
1980年の90周年記念に配布された馬の蹄鉄(新潟ねこの病院のロビーに飾ってあります)
麻布大学の獣医学部のマーク 麻布獣医学会賞を授与したときに贈られたロゴマークの入ったメダル(私は2個持っている) 大学のマークにヘビが絡んでいるのは、『麻布大学の獣医学部には獣医学科・動物応用学科・獣医保健看護学科の3学科が動物に関する学問の象徴として使われています。ヘビのマークは、癒しや生命力を表すシンボルとして用いられています』。というような意味があるそうです。
戦後は国民の健康と体力増強と関連して乳牛・肉牛の教育、そして豚・ニワトリなどの食肉の普及に努めてきたことが分かります。国策が獣医学の分野にも入っていました。農耕馬から農業に機械化が進んだことも一因と思われます。
その後、昭和の高度経済成長に伴ない、ようやく犬の話題が入ってきました。犬の話題が多くなると馬の講義や実習は少なくなってきたそうです。
1970年代当時、わが国では馬に代わり牛の教育が中心でなされてきました。そのころのイギリスやアメリカでは犬の教育にも力を入れていました。
犬の繁殖学 1960年発行(イギリス・ロンドン) 私の指導教授が退官するときにいただいた書籍。私の宝物です。1960年(65年前)当時の海外の獣医学書の原本を持っている人は珍しいです。
日本では獣医師の免許は農林水産省から授与されるため、農林水産、つまり農業分野であるため、犬や猫が授業の中心に来ることはないと思われます。現在も大学の農学部に獣医学科が散見されるのはこのためと思われます。私が学生のころ、『獣医学部 獣医学科』を明記していたの、は国立大学では北海道大学、私立大学では麻布獣医科大学のみでした。
これは獣医繁殖学のアメリカの原本 馬・牛・豚・羊・ヤギ・犬・猫・ウサギ・ラットそして動物園の動物が掲載されている。獣医繁殖学を選択すると他の分野より数倍の勉強が必要になる。例えば眼科・歯科などの分野と異なり、雄(オス)と雌(メス)の2つの勉強が必要となる。もちろん猫も。それに帝王切開、新生子、小児科、オスの泌尿器系、不妊・去勢手術などなど。
獣医学書では各種の動物の本が出版され、昭和の後半ころから犬猫の本が多く出版されてきましたが、そのほとんどが翻訳本でした。例えば『犬と猫の内科学』とか『犬と猫の皮膚科学』などなどです。現在、数百冊におよぶ犬と猫の獣医学書が存在するなかで、1冊だけ、訳本で『ネコとイヌの身体検査)という本が出ていますが、タイトルで犬より猫が先に記載してあり珍しいです。タイトルというのは筆者の希望より出版社の意向で決定されることも多かろうと思います。売れるタイトルも大事ですものね。
確かに『犬猫』と言ったほうが『猫犬』と言うよりも、ごろ合わせはいいですね。今までずっとわが国ではこう言ってきたわけですので。
犬と猫を『小動物』といういい方もしますので『小動物の外科手術』などなど、いろいろです。小動物とは獣医学分野では犬と猫の事を示します。
最近になって、ようやく猫は犬から独立しつつあり、猫の治療ガイド、猫の医学、猫の解剖学、猫の超音波検査など猫単独の書籍が少しづつ出版されてきました。まだまだ訳本が多いですが喜ばしいことです。
私のように猫の診療のみをやっていると、『犬猫の○○学』、またフードメーカなどのパンフレットも犬が先で猫のページがあとに出てきますが違和感があります。猫犬にしてとは言わないがコストがかかっても犬と猫を別々のパンフレットや冊子にしてほしいですね。こうしないと飼い主様に猫の食事の説明がやりにくいのです。理解できるかな~ ? 実際に診療などの実務についていないとわかりにくいだろうと思う。
いずれにせよ、獣医学の分野はわが国をはじめ、世界中で馬・牛・豚・羊・ヤギ・(鶏)・犬・猫の順に取り上げられている。