15~22年くらい前の話です。

ムササビと7年間、一緒に過ごしました。『暮らした』かな?

ある日の春~初夏ごろだったかな。三川村(現在の阿賀町)に住む男性から、自分の山林の木を切り出したら、木の穴から子どものムササビがでてきた。『悪いことをしたなという気持ちと、仕方ないかな~という気持ち』があり、ここ『新津市秋葉(現在の秋葉区秋葉)の小島動物病院アニマルウェルネスセンター』へ来れば何とかなるだろうという気持ちがあり、近所の人にも勧められて連れてきたということだった。

『人だと、誘拐だとかいって、みんなで笑った』。

私は、ムササビは、見たことはあるが、診察の経験はないし、ムササビの勉強をしたことがないし、診察してもわからないと思う、と正直に答えた。(連れてきた人を、一応ここでは、仮の飼い主とした)。

仮の飼い主は、何か考え込んだようで、『自分の家でいるよりはいいと思うので、1週間くらい入院させて診てほしい』ということで、預かった。

早速、私とスタッフが交代で、面倒を見ることになった。

まず、性別は雄、身体検査後にレントゲン検査をしたが、特に異常らしきものはなかった。骨折もなかった。眼の異常もなかった。毛並みもいいと思った。触った感じは、少しゴワゴワしたような手ごたえだった。被毛は柴犬というより、どちらかというと日本猫で毛が硬めの猫がいるが、そんな印象を受けた。木から木へと飛ぶときに使う飛膜も問題なかった。口のなかも問題なかった。検便も問題なかった。心音や呼吸音なども問題なかった。このあたりまでは、通常の猫と犬の診療で行う基本的なことで、うまくいった。

問題は食べ物である。

いろいろ探し試したが、最初はハムスター用のひまわりの種を気に入って食べたがすぐ飽きた。その後、再びひまわりの種を2カ月くらい与えたら、体重が増えたので中止した。

ムササビの食べものを求め歩いた。1年くらいしたときに気づいたが、季節の(旬の)果物が大好きで、ハウスものは今一つの印象だった。分かるのかな。バナナも食べなかった。ムササビは食べ物を手でつかんだとき、ぐちゃぐちゃするのは苦手であった。メロンや木の実を好んで食べた。手を使うのが上手だった。猿よりは劣るがかなり手の使い方が上手かった。

ミルクで育てたが、犬の新生子用のミルクを飲ませた。猫の新生子用と比較したが、直感(笑)で犬用を与えた。これは上手くいった。ムササビのデータがないというのも、いいものだ。

注射ポンプ(シリンジ)でミルクを飲ませて大きくしたら、大人になってもミルクが好きで、私が手に持ったミルクの入ったシリンジを取り上げ、自分で飲もうとするのだが、シリンジを押せないので飲めない。この図は、飲めないといって怒っている様子。この後、シリンジを投げつけた。

 

リビングのテーブルの上で木の葉を食べるムササビ。

後ろにみえるリビングのイスはかじられて、背もたれはボロボロになった。

 

ムササビはいつの間にか、当院?私の?ムササビになっていた。

とてもかわいらしく、自分とムササビとは同じ哺乳類だということを実感した。猫と犬とは違うかわいらしさがあった。

 

野生動物なので、飼育していいのかどうかが分からなかったので、いくつかの関係機関に連絡したが明確な返答はなかった。

『治療しなければ生きられないなら、治療目的で預かってください』『猿や熊などの凶暴な動物でなければ保護しておいてください』『など、など』である。

 

まさか、7年も生きるとは思わなかった。

ホントにかわいかった。

『野生に返せば生きてはいけないので保護している』という大名目で落ち着いた。私も政治家になれるかも?

 

その後、約10件、ムササビの診察を行った経験がある。

ムササビについて、偉そうに物知り顔で説明している自分がいた。

 

猫とムササビは違う。しかし、こういう経験も新潟ねこの病院では生きている。