診療科目のなかの繁殖学と内分泌病学
飼い主さんからの意外と多い質問で、『猫先生(小嶋さん)の経歴やホームページの記載で繁殖学と内分泌病学の研究とありますが、人の医療分野ではあまり聞かないような名称です。どんなことをいうのか教えてください』。というような内容です。
まず、獣医大学の修復科目は選択科目も含めて多くの科目を勉強します。
その中から、獣医師の国家試験の科目としてはセレクトされた17科目と、専門科目ではないが、倫理・法律が受験間目となります。これらはすべての科目において、講義と実習があります。
専門科目は医学部では解剖学・内科学・外科学・公衆衛生学などと呼ばれていますが、獣医学部では“獣医”をつけて、獣医解剖学、獣医内科学、獣医外科学、獣医公衆衛生学などと呼ばれています。ヒトの医学と区別するためです。ただ、学内では内科学・外科学など“獣医”を省略して呼んでいます。
さて、私が獣医大学在学中(獣医学部学生のとき)に当時の教授の指導で牛を中心としつつ、犬、鳩、マウスとラットの研究の補助をしました。卒業後の大学院獣医学研究科時代は犬と猫の繁殖学領域の研究を中心として、自然交尾からみた人工授精、また不妊と去勢そして薬による避妊薬の開発とホルモン値の測定をしました。そこから発展して今度は製薬会社からの依頼(大学との共同研究)で犬および猫の避妊薬の開発や臨床試験、また犬の前立腺肥大症の治療薬の開発と臨床試験また甲状腺ホルモンの測定(猫が主体で犬も行う)などを依頼された。
そして犬の避妊薬と猫の避妊薬、犬の前立腺肥大症治療薬が市場にでました。
犬の交尾は一大イベントなのだ
このあたりが自分の基礎となり、今は血液の検査値やホルモン値のデータの数値をみただけで全体像を描くことができる。これらは繁殖学や内分泌病学だけではなく皮膚科学や内科学の診療にも役に立つ。
このような犬と猫の研究は大学という特殊なところだったので試薬が入手できたが、一般の動物病院での試薬の入手や試験などはできない(難しい)時代だった。
これは35~15年くらい前の話だが、このことが基礎となり、書籍の出版や大学での講義などにつながっている。そして今の『新潟 ねこの病院』を支えている。
実際のところ、獣医学分野における繁殖学とはヒト医療に例えると、産科学・婦人科学そして新生子学・小児科学などに当たる分野である。獣医学では雌動物の病気だけではなく、雄動物の病気・新生子学・不妊去勢・人工授精・帝王切開等々がかなりのウエイトで入る。意外なことに本来は泌尿器病学の分野の前立腺疾患もこの分野も入る。
冷凍精液や凍結精液の取り扱いには注意しよう!
余談ですが、前立腺が病気として取り上げられ問題になるのは、ヒトと犬のみです。猫が問題になることはほとんどありません(私見)。研究はされていませんが、犬が問題になるということは、キツネとタヌキも前立腺の疾患があるのではないかと思っています(私見)。
いっぽう、内分泌病学は、だれもが知っている代表的な病名では糖尿病・甲状腺機能亢進症(ほとんどが11歳以上の猫の病気)です。参考までに甲状腺機能低下症のほとんどは7歳以上の犬の病気です。
一般的には獣医内分泌病学は獣医学領域では獣医内科学に包括されている場合が多いです。
多分、少しわかりにくかったと思いますが、獣医学分野の繁殖学は診断学と治療学が入り正式には獣医繁殖学、獣医臨床繁殖学、臨床繁殖学というように呼びます。これらは獣医大学の講座名として各大学に委ねられています。
これは、農学部や畜産学関連の学問と区別するためです。これらは家畜繁殖学(犬や猫は入っていない)というように呼ばれることが多いです。また動物看護関連では動物繁殖学といわれています。
これらの呼称は似ているけど違うのです。当然、内容は多少の共通項目もありますが異なります。